大学生の象徴のようなAくんの話

 

オレンジデイズ』みたいな大学生活に憧れますよね。あと、芸大を目指していた時期もあるので『ハチミツとクローバー』に憧れていたこともありました。皆さん見ていましたか?私は当時小学生~中学生くらいだったのですが、大学生といえばドラマみたいなキャンパスライフを送るものだと思っていました。高校生活最後に散々な失恋をしたので受験勉強を頑張って、第一志望の大学に合格しました。

「大学生になればさすがに彼氏できるやろ…。」そう思いながらずっと憧れていた大学の門をくぐる生活が始まりました。大学生活が始まってすぐに今までの人間関係の築き方と違うと感じました。男の子がすぐにメールアドレスを聞いてくる。知り合ったばかりなのに下の名前を呼び捨てにして呼んでくる。高校生の男の子と違い、コミュ力に溢れていたことに驚くばかりでした。その様子に少し圧倒されてしまい、最初はあまり大学に馴染めなくてオレンジデイズなんてほど遠い毎日でした。そんなときによく大学の愚痴や相談をしていたのは通っていた予備校のバイトのHさん。私が1回生のころ彼は4回生で、イマドキの大学生の権化のような人でした。合コン、バイト、サークルの毎日。サークルと言っても合宿と称して毎日飲み会をする旅行に行くようなタイプのテニスサークルです。Hさんの話を高校生のときによく聞いていたから、大学生活はこういうものだと思っていました。Hさんの学生生活とは全く異なる生活を送っている私はおかしいと思い、つらい日々を送ります。

しかし性懲りもない私はすぐに出会いました。5月のある日、英語のクラスで飲み会をすることになり、参加しました。飲み会というものにあまり参加したことがないのと、ウェイ系大学生が多かったので楽しみ方が分からなくて最悪な気分でした。その中で一人、少し落ち着いていてみんなに気を使っている男の子、Aくんがいました。授業のときからいい人だと思っていたので、しゃべってみたいと思いました。Aくんは浪人していて一歳上でした。やはり年上の人に惹かれることが多くなりました。飲み会では入るサークルの話をしたくらいの記憶しかありません。でもAくんともっと仲良くなりたいと強く思ったので、後日課題を確認することを口実にLINEをしました。それから少しずつ仲良くなっていきます。

ある日、AくんからLINEが来て休みの日にふつうにデートをしました。夕方から私はサークルがあったので昼間に一緒に買い物をしてマクドナルドに行っただけですが、あまりデート的なことをした経験がなかったのでドキドキしました。大学に入って早々こんなことが起きるなんてこれはもう付き合う流れとしか思えませんでした。あとは、私は履修していないけどAくんが履修している授業に忍び込んで一緒に授業を受けたりお昼ご飯を一緒に食べたりし、急激に距離が縮んでいきました。

毎週火曜の英語の授業はAくんに会えるのが楽しみだったのですが、Aくんは大学生活の自由さに負けて授業を休みがちになります。出席を取らない授業には出るのを諦めて次の授業の課題をやる時間に充てたりするようになります。ある火曜日の朝にAくんとLINEをしていて、「課題やった?」と送ると「今日休むわ!きなこに会いたかったけど、ごめん」と来ました。今日彼に会えないということは残念でしたが、『会いたかった』という一言に顔はにやけ心は高鳴りました。もう付き合えるやつやん、我ながらさすが大学生!と思いました。

7月のある日、なんとお祭りに行く約束をします。それも、日本三大祭りの一つ、祇園祭。男の子とお祭りに行ったことなんてもちろんありません。浴衣?着ていっていいの?周りからカップルと思われるけど大丈夫か?緊張しかありませんでした。

当日、パックをしてお母さんに浴衣を着せてもらい、京都に向かいました。私の浴衣姿を見た彼は照れていたのか「似合ってるやん」という感想のみでした。私は初めて祇園祭に行ったので、京都出身の彼に案内してもらいました。一つの屋台に並んだときに、私たちの前に小学生くらいの男の子5人組が並んでいました。その子たちが屋台の前でガヤガヤしているところを見た屋台のお兄さんは私たちを見て「子ども?」と冗談を言いました。するとAくんは「子作り頑張りました」と冗談で返しました。私は「ちょ、ちょっと…!そんなこと言いなや><」と言いました。きもすぎ。子作り=セックスを連想してしまった処女の私は必要以上に照れました。今も処女ですが今なら私も冗談を言えると思います。そんな会話もあり、私はすでに彼女のような気分でした。車道側を歩いてくれたり、買ったポテトを手で食べさせてくれたり、Aくんも彼氏のような振る舞いをしました。帰りの電車では過去の恋愛や高校時代のことなど、少し深い話をしました。今この瞬間に戻れたら過去の恋愛の話なんて絶対にしません。18歳とはいえ片思いしかしたことないことや、ことごとくダサい失恋をしてきたことを惜しげもなく話すなんて反応に困ることをしてしまいました。24歳の今は新たに出会った人には自分から恋バナをしないようにしています。かっこ悪いから…。でもこのときは悪影響を及ぼすほどではなく、私の乗り換えの駅まで着いてきてくれて、帰宅してからはまた遊ぼうとLINEをしてくれました。付き合うのも時間の問題だと思っていました。

毎日のように連絡を取っていましたが、祇園祭のあとすぐにテスト週間に入ったので連絡を取るのは中断しました。テストが終わっても連絡が来ることがなく、おかしいと思っていた頃、夏休みになり私はAくんに教えてもらった派遣のバイトを始めました。初出勤は淡路島の音楽フェスに泊まり込み。一人で心細いし不安でしたが、初めてのバイトだったので断ったらこれから仕事が来ないかもしれないと思って引き受けました。バイトを教えてもらったのでこれを一応AくんにLINEで報告しました。

「久しぶり!この前教えてもらったバイト今度初出勤してくる!淡路島に泊まり込み(´・ω・`)笑」

「まじか!(笑)頑張ってな!」

「ありがとう><寝るときとか寂しいし夜電話して(笑)」

「分かった!」

こんな感じで久しぶりに連絡を取りました。

初出勤の当日はほぼ始発で家を出発し、早朝6時頃に三ノ宮駅に集合しました。一日目のバイト内容は会場案内。しかし会社のトラブルで会場に到着するのが遅れたため、会場の作りを知らないまま持ち場に付きました。トイレの場所を聞かれたらお客さんも持っているものと同じ会場MAPを見ながら教え、聞かれたことが分からなかったらとりあえずインフォメーションの場所を教えるという、いてもいなくても変わらない仕事をしました。しかも真夏で汗が止まらなくて、体力がどんどん奪われていきました。なんとか夕方の涼しくなってきたころに出演しているアーティストの演奏をふつうに見ることができたので、そういうところは良いバイトかなと思いました。

一日目の仕事が終わり、帰る組と泊まり込み組がいて帰る組が優先でバスに乗って駅に帰っていきました。泊まり込み組の私たちが宿泊所に到着したのは22時頃。朝は宿泊所の前に4時集合でした。は?ブラックすぎか??宿泊所ではボイコットの作戦会議が自然と行われるほどしんどいバイトでした。とりあえず一息つき、なんとなく当時主流だったmixiを開くと、Aくんが花火大会の写真を投稿していました。ん?女か?!!?気が気じゃありません。とりあえずこちらからLINEをしました。

「バイトいま終わったー(;_;)明日3時起き…」

「お疲れさま!!え!きついなー><」

「めっちゃ疲れた…。」

「ほんまにお疲れさま!明日もファイトやー!」

「ありがとう(*^^*)mixi見たけど、花火大会行ってたん?」

「そうやねん!めっちゃきれいやった!」

「いいなー!さては女の子とやな!!」

この絶妙なタイミングで眠りました。最悪な目覚めが待っているとも知らずに。

翌朝、眠い目をこすりながら携帯を見ると、AくんからたくさんLINEが来ていました。

「せやでー!おなごや!」「きなこに言えてなかったんやけど、実は彼女できてん!」「でもきなことは友達としてずっと仲良くしたい><」

心の中で大号泣しましたが明るく冗談ぽく返信しました。

「そうなんや!おめでとう!オッケー!都合の良い女ね!」

すると早朝なのにすぐに返信がきました。

「おい!そういう意味ちゃう(;_;)」

LINEは中断し、バイトが始まりました。

二日目のバイト内容はチケットのもぎり。1DAYチケット、通し券、ファミリーチケットなど何種類かチケットの種類があり、それによってもぎるブースが違います。自分の担当じゃないチケットを持ったお客さんが来たら正しいところに誘導します。チケットの種類がややこしくて何度も間違えてチーフの人に怒られ、半分泣きながらチケットをもぎりまくりました。二日目は座って仕事できる分マシでしたが、相変わらず暑くて大変でした。バイトが辛すぎて考え込む余裕がありませんでしたが、ふとした瞬間に今朝失恋したことを思い出しました。

お客さんの入りが落ち着いてきた頃、撤収の準備をための作業が始まりました。午前中はずっと入場のゲートにいたので聞こえませんでしたが、会場の近くに移動したときにまたアーティストが演奏している音が聞こえました。そのときに聞こえたのはミスチル。「恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲーム」。あまり意味は分かりません。多分片思いの歌詞ではありませんがラブソングということだけで、心の中で泣きました。

 

後日、mixiや始めたてのツイッターで調べたところ、祇園祭りに行った3日後に彼女ができていたようでした。その彼女は、Aくんの大学の女友達の高校の友達でした。大学の友達はたまたま私の中学の友達だったのでその彼女のことも知っていました。好きだったということもバレてたと思うし、前のように話すことがお互いできなくてここから一年くらい絶交期間が続きました。