想いを伝えたくて仕方なくなったI先輩の話

ワインや日本酒に詳しい、肉より魚派、タクシーに慣れている、そんな男性を見ると「大人!」と感じ、ついついうっとりしてしまいます。24歳になった今でもそんな程度でうっとりしてしまうあたりがへぼくてしょうもないのですが、高校生の頃から年上の人を好きになることが多いです。「年上フィルター」って本当に男性を輝かせますよね。ずるい。

イケてない中学時代の原因が部活だと思っていたので、高校では部活選びに失敗しないように気を付けました。高校ではもっと自由に遊びたいとも思っていたので、平日に最低1日と土日は完全に休みだけどやりがいはある部活に入りたいと思っていました。いくつか見学に行きましたが大変わがままな条件で探していたので見つかるわけはなく、家でゴロゴロしながら携帯をいじっていたら当時流行していた携帯HPの学校ごとのランキングサイトを見つけました。そのランキングサイトからたまたま見つけたラグビー部のHPを何気なく見ていたら、マネージャー希望が来なくて困っているという2年生のマネージャーの人のつぶやきを目にしました。昔から自分で音楽や絵画で何かを表現する方が好きだったので他人のお世話をするマネージャーという選択肢は全くありませんでした。でもこの書き込みを見たときになんとなく考えが揺らぎました。入りたい部活がないならいっそのことマネージャーもありかなあと思い、同じクラスの友達Sちゃんを説得して2人でラグビー部にマネージャーとして入部しました。

ラグビー部に入ると言ったとき、いつもは何でも私の好きなようにやらせてくれる両親が反対しました。「自分で何かをする方が向いている」と散々言われました。両親に言われたことは本当に正しいけど、3年後この選択が間違いじゃなかったと思えるように「男性嫌いを克服する、社会的に成長する」という目標を掲げました。

ラグビー部での生活が始まると、自分はライオンの群れの中にいるシマウマだと思いました。本当に男性が苦手だったので、部員がたくさんいるところにいると緊張して少し動悸が激しくなりました。しかもイマドキっぽい男の子という感じの部員が多く、地味めな私はラグビーのルールを覚えるとともに馴染むのに必死の日々でした。

ラグビー部は3年生2人、2年生8人、1年生7人、合計17人。マネージャーは2年生と私たち1年生でそれぞれ2人ずつの合計4人いました。毎日一緒の時間を過ごすことで同期の部員とは少しずつ仲良くなっていきました。ラグビー部に入り、人生で初めて「男の先輩」と関わる機会ができました。先輩は皆さん面白く、マネージャーの私たちにも気遣ってくれて優しいです。その中で一人、憧れの先輩ができました。2年生のI先輩はとにかく毒舌。ぶっきらぼうで冷たい印象。練習はできるだけ楽したいし遅刻も多いしサボりたい。でもラグビーのスキルの高さはピカイチでした。音楽やお笑いの趣味が似ていたので一番話しかけてくれて、とても憧れるようになりました。でも先輩には彼女がいたので、恋愛感情を抱くことはありませんでした。

I先輩の彼女は元気で明るくてかわいいテニス部の2年生。彼女はI先輩のことが大好きで仲良しカップルだったので2人とも憧れでした。私が1年生の秋ごろ、突然2人は別れました。彼女と別れたので私のものになる可能性が1%でもあると思った瞬間、憧れはすぐに恋心に変わってしまいました。先輩にとって私はただの後輩マネージャー。好きになってもらえる自信なんて全くなかったので、すぐ好きになってしまう自分に嫌気がさしました。自信がないので好きな人ができるたびに毎回嫌気がさします。

9月、高校生になって初めての文化祭の季節になりました。自分のクラスの出し物は1年生らしくあまりうまくいきませんでした。一緒にラグビー部に入ったSちゃんと、先輩のクラスを回りました。2年生や3年生は劇やダンスをするクラスが多いです。部活のときに見る先輩方の姿とは少し違う姿を見ることができて、とても楽しめました。I先輩のクラスは自分たちで映像を作って映画を上映していました。夏休みから文化祭の準備期間、文化祭当日にかけて気付いたことがあります。I先輩は部活ではめんどくさがりで強く当たったりするので、協調性がありません。信頼しているというのもあると思いますが、ワガママなときもあります。ですが、文化祭や体育祭などの行事はクラスの先頭に立って仕切っていました。文化祭委員などの役職に就いているわけではないのにクラスではリーダー的ポジションのようでした。生徒会に入っているわけでもないのに生徒会の方と仲が良く学校全体で有名な人になっていました。生徒会関係でラグビー部以外の後輩とも知り合いが増えていて、女子の後輩の中では一番仲が良いと思っていたので勝手に嫉妬してしまうことが増えました。

12月、一緒に入ったSちゃんが辞めました。無理やり誘ったしバイトをしたいと思っていた子なので仕方なかったですが、これから同期のマネージャーが自分だけになるということが心細くなりました。仕事量的には何の問題もありませんでした。20人弱の部員に対し、マネージャーが4人もいたのでむしろ毎日暇でやることがあまりありませんでした。というのも、先輩のマネージャーが仕事に対してやる気がなく、言われたことしかやらないタイプでした。Sちゃんもそういうタイプだったので、私がもっと部員が求めていることを考えて仕事をしないといけないと思うようになりました。

部員の中で一番仲良かった男の子、KくんにはI先輩のことをすべて相談していました。I先輩とKくんは同じ予備校に通っていたので情報通でした。「甘いものが苦手らしいよ」と教えてもらっていたので、チョコと甘さ控えめのクッキーと作ってあげることにしました。

バレンタインは日曜日の練習の日。練習開始時間の数分前に学校に来て準備を始めます。部室にいる部員にチョコを渡すと、みんな素直に喜んでくれました。けどI先輩の姿がありません。こんな日に限って遅刻です。渡すタイミングがない、どうしよう…。グラウンドに道具も持って行き、準備をしているときにI先輩が遅れてくるところを見かけました。これはチャンス!忘れ物を取りに行くふりをして部室に戻りました。部室には二人きり。たいした会話はしなかったと思いますがわざわざ戻ってきてチョコとクッキーを渡したので気持ちが少しでも伝わればいいなと思いました。ホワイトデーは3月の終業式。部員の先輩2人が私の教室に来て、手作りのお返しをくれました!マメすぎるでしょ!嬉しすぎる…先輩好き…と思っていたら、I先輩も教室に来てくれました。手作りではありませんが、ラッピング袋に自分でお菓子を詰めたものをくれました。このラッピング袋はしばらく大切に保管していました。大好きな先輩から初めてもらった物。宝物でした…。

3月くらいから私が部費を管理するようになりました。2年生は受験モードになっていき、先輩マネージャーは練習が終わるとすぐに予備校に行くようになった分、私は部員とより長く過ごすようにしました。ほかの部活のマネージャーに相談をし、試合のあとに手作りの差し入れを始めました。先輩マネージャーはやる気も時間もなさそうだったので相談せずに一人で行いました。今までそんなことをしてこなかったので、部員はとても喜んでくれました。先輩マネージャーは私のゼリーを取り上げ、自分の手柄のように部員に配ったりしていましたが、そんなことは部員にお見通しでした。

4月になり、1年生の部員が5人、マネージャーが2人入部しました。今まで以上に部員に寄り添って仕事をするようにしました。後輩と3人で考えていろいろな差し入れをしたり暑くなってきたらアクエリアスを水に混ぜたりしました。部員たちは先輩マネージャーの悪口を私に言い、一番私を頼ってくれるようになりました。キャプテンのT先輩やI先輩は私をとても頼りにしてくれました。マネージャーが準備をしていてグラウンドに入るのが遅くなってしまい、T先輩に「マネージャー早く!」と怒鳴られたことがあったのですが、その後「あいつらに言ったからな。きなこには言ってないから。」と言ってくれました。ある試合の帰り、I先輩と2人で自転車で帰ることがありました。入部したばかりの頃は、練習中に少し話すだけでも緊張してその帰りに友達に「I先輩としゃべった!」とメールしてしまうほどだったのに、2人で帰れるくらいの中になったことがすごくうれしかったです。

7月の私の誕生日、ラグビー部全員にサプライズで祝ってもらいました。そんなこと一度もなかったのでとてもうれしかったけど、先輩マネージャーにはものすごく嫌われました。明らかに私の方が部員に好かれていたので僻まれてしまいました。最後の公式戦の直前の8月ごろから先輩マネージャーは予備校に行くために練習を休みがちになりました。部活に来るのは試合の日だけ。たまにグラウンドに現れると部員の雰囲気が悪くなっていきました。たまたまI先輩と電車で帰っていたとき、「きなこは悪くない。俺らが言ったるからな。」と言ってくれました。

「マネージャーがいると雰囲気が悪くなるからラグビー部を辞めてくれ。嫌ならちゃんと練習に来い。」異例の話し合いが3年生で行われました。先輩マネージャーは辞めずに、真面目に練習に来るようになりました。

I先輩は3年生の体育祭では団長を務め、学校中の有名人となりました。後輩やクラスの友達がたくさんいます。廊下で会ったときにI先輩が友達数人といたので挨拶をしそびれたことがあったのですが、向こうから「きなこ!おはよう」と声をかけてくれたのは飛び上がるくらいうれしかったです。体育祭や文化祭での活躍、先輩マネージャーから私を助けてくれたこと、ラグビーのプレー中の姿。いろんな先輩の姿を知っていくたびに想いを伝えたくなりました。先輩たちは9月の公式戦で敗退し、引退。すっかり会う機会が少なくなった12月。想いを伝えようと決めました。自信は1ミリもありませんでした。とにかく早く言いたかったのです。

Kくんに相談し、地元の駅に呼び出してもらいました。先輩は予備校帰りだったので指定された時間は22時。それまで地元の友達にマクドで励ましてもらっていました…。頭の中でイメトレを重ねます。何度も何度もイメトレ。伝えてフラれて先に帰ってもらおうと計画しました。時間になり駅前に向かい、先輩を待ちました。先輩は手にミルクティーとココアを持って現れ、「どっちがいい?」と言いました。ああ、計画が崩れた…。頭が真っ白になりました。ミルクティーをもらい、ベンチに座りました。思いのたけを伝え、しっかりと「付き合ってください」と言いました。告白しているときはなんだかもう、ドラマやん。付き合ってくださいとかドラマやん。と思って笑いそうになりました。結果はまあフラれました。「好きな人がいる」「東京の大学を受ける」という理由でした。まあ優しさですね。そのまま帰ってもらおうと思っていたけど、1時間くらいたわいもない話をしました。一緒に帰り、次の日学校ですれ違ったときもふつうに挨拶をしてくれました。せめてもの救いが「直接告白されたの初めてやったからうれしい」と言ってくれたことです。

「きなこ!合格したで」。3か月後、廊下ですれ違ったときに先輩は私にそう言いました。先輩はちゃんと東京の大学に合格しました。自分のことのように喜びました。とことん尊敬できる。ずっと憧れの先輩だと思いました。

 

 

 

半年後、Kくんから教えてもらったのですが、I先輩は私から告白されたことを生徒会の友達や後輩に言いふらしていました。こういうのはあまり言わないのが暗黙のルールというか気を使ってくれる人だと思っていたので大ショック!GWに部活に遊びに来たときはしゃべりませんでした。水は後輩に持っていかせました。